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STORY

コレクションタイトル 装飾

Victorian Case

知っている?
ヴィクトリア朝の頃に
ガス燈で街は明るくなり
舗装された道路で
もう夜なぞ怖くないと僕達は
先の尖ったブーツにてステップを
踏むようになったんだ。

大掛かりな博覧会も
沢山開催されるようになってねぇ
通信や交通が発達したおかげで
遠くの人とカラフルな
絵葉書を送り合ったりするようになった。

科学の世紀、万歳!
あの頃、僕らは歓声をあげたのだけれども
調子に乗り過ぎていたのかもしれない。

ウォーディアンケースという
少しの水を与え植物を育てる
密封された
小さな硝子箱も発明され
僕達はそれを部屋の
机の上に置き
眺めることにも熱中した。

これは小宇宙だと
自慢気に
友人達に説明したりもしたけれど
中に閉じ込められた植物の鬱屈なぞ
気にも掛けなかったんだ。

僕は想う——。
あの時、硝子箱に閉じ込められたのは
僕達自身じゃなかったのかと。

自らの世界を無限から有限に
縮小してしまったことは
もう、ただしようがない。

もし硝子の外側に
君を見付けたとして
僕は君を
見つめることしか出来ない。

嗚呼、だけれども
僕の住む世界を眺め
君が、綺麗な
ウォーディアンケースであること……
微笑んでくれると
僕は嬉しくなるんだ。

隔離された小宇宙にいるからこそ
君の眼にとまったのだと
宿命にすら感謝してしまえるんだ。

安全だけど窮屈な世界に
根を張る僕は
雨や風を知らない。

誰かが水を与えてくれないと
枯れてしまう。
鑑賞されるだけの僕は
君に手紙を書く術も持たない。

それだから
身繕いだけは欠かさない。
もし君が悲しい時
僕を観て平穏を
或いは熱情を

取り戻すことがやれるなら
僕は自分が綺麗であるを
役割として全うし続けよう。

こんな中に暮らせたなら
どんなに素晴らしいことか——。

君は僕を客人に向けて紹介する。

何の品種ですかな?
薔薇ですわ——
君は胸を張って答える。

実は単なる
野暮ったいシダなのだけど
君がそういうのなら
薔薇で構わない。

やがて君が僕に飽きて
ハロウィンの仮装に夢中になると
僕はカボチャに嫉妬する。

カボチャなんぞより僕の方が
君には絶対に相応しいと
硝子ケースの中でふてくされる。